三宅 克(みやけ しのぶ)
株式会社小学館クリエイティブ 代表取締役社長
株式会社ヒーローズ 代表取締役社長
1970年小学館入社。「少女コミック」「少年サンデー」等を編集。
特に新人マンガ家の発掘・育成に注力。のち、ライフスタイル誌や児童誌を創刊。
現在は、株式会社小学館クリエイティブ及び株式会社ヒーローズの代表取締役社長に加え、京都精華大学の客員教授も務める。
「ヒーローズ」の立ち上げの経緯を教えてください。
漫画雑誌や小説誌というのは、情報誌などと違って商品を作るために作家を抱えなくてはならないので、簡単に新規参入できるものではありません。そのため出版社が専業でやっているのですが、それが今、各社とも非常に難しい状況にあり、業界内のノウハウだけでは立ち行かなくなってきていると考えていました。
雑誌はメディアですから、売れないからといって刷り部数を落とせば、読者との接触機会が減ってしまいます。減るとまた売れなくなる。そして、メディアとしての力が弱まっていくのです。力が弱まれば売れない、売れないと値段を上げる、ますます売れなくなる。どこかでこの悪循環に歯止めをかけ、もう一度メディアとしての力を取り戻したいということで、メディアミックスなどの多元展開の可能性を探れる異業種、すなわちフィールズと組むことになりました。このコラボレーションは、出版活動をするにあたって非常に大きな力を持つ小学館のノウハウの活用とブランド力の利用、さらには従来の出版界にない仕組みの構築が可能になったという意味で「良いとこ取り」ができる画期的な組み合わせができたと考えています。
「ヒーローズ」はどんなところが他の漫画雑誌と違うのですか?
作品を作るにあたっては、1作品に複数の才能を活用するスタジオ方式を採用しました。
コンテンツの多元展開を視野に入れた作品を求められる「ヒーローズ」では、まずはコンセプトをしっかりと浸透させていく必要があると考えました。そこで、一人の作家の個性で勝負をするのではなく様々な才能を組み合わせて作品を作ろうと考えたわけです。とはいえ最終的に何かを突き破ってすごい作品を作ってくれるのは作家です。「ヒーローズ」のコンセプトを理解していただいた上で、この「ヒーローズ」で描きたいという作家が現れれば、ぜひ描いていただきたいと思っています。
また、販売方法や広告費に頼らない利益構造も出版界にはなかった全く新しいモデルです。販売箇所を書店様ではなくセブン-イレブンさんに絞りました。また、作品の様々な2次利用、3次利用を前提としているため低価格での提供も可能としました。書店様には、この低価格の商品を売っていただいても利益が取れずにご迷惑をかけてしまいます。書店様には成果物であるコミックの単行本の販売の時に力を貸していただきたいと思っています。セブン-イレブンさんにとっては、雑誌の販売による直接的な利益よりも、他のコンビニエンスストアにはない商品として取り扱っていただくことにメリットがあると思っています。私たちにとっても13,600店の規模と優れた店舗オペレーション力を誇る日本一の流通が力になると確信しています。
創刊号のご評価はいかがですか?
面白い面白くないというのは読む方それぞれの感性なので一概には言えませんが、メディアミックスを念頭に置いてヒーローを生み出すという「ヒーローズ」の雑誌作りを作家がとてもよく理解し頑張ってくれました。
絵というのは熱意が如実に伝わります。今回は新しい才能の可能性を信じて若い作家を起用しましたが、皆さん手抜きのない緊張した絵を描いてくれました。新参の雑誌によくここまで力を入れてくれたと感謝しています。
「ヒーローズ」が今後人気雑誌として育つためには、何が大切なのでしょうか?
期待されているのは海外で勝負ができるような新しいヒーローを生み出すことです。
漫画は、登場人物を知っていくほど、物語が積み重なるほど、読者自身が面白く感じていくものです。作家が生み出したキャラクター、ストーリー、そういったものが読者の気持ちを引っ張っていってくれます。そして、今まで存在しなかった人物や世界が立ち上がってきます。無から有が生まれます。真の意味でのクリエイティビティだと思っています。
今回起用した若い作家は、すごいスピードで成長しています。「ヒーローズ」っていいね、と言ってもらえるまで時間はかかると思いますが、スタジオ方式だからこそのボリューム感ある作品作りやAKB48を起用したプロモーション、Webサイトとの連動などで読者を惹きつけながら、若い作家の創造性に期待をかけ、ヒーローコンテンツの貴重な器になっていくことが大切だと思っています。
雑誌の創刊というのは、これから生まれるであろう莫大な作品や作家を生み育てる、というとても大切な仕事です。クリエイティブの母です。「ヒーローズ」の目指すところは「big mother(大いなる母)」になることです。「ヒーローズ」があったからこそ輩出された作家と、すばらしい作品が存在する、そういう未来を作ること、雑誌のすごさとはそういうところにあるんです。
最後に、三宅社長にとってのヒーローとは?
私にとってのヒーローとは、「善(よき)を生み出す人」です。
例えば、雇用を生み出す人。正義を生み出す人。良き倫理を生み出す人。作品を生み出す人や、作品を生み出す人を生み出す人。そして「ヒーローズ」の目指す姿でもある「big mother」。それが私にとってのヒーローなんです。